高い火力と安定した遠赤外線で、食材を美味しく焼き上げる備長炭。
料理の質を極める道具として高く評価される一方で、日常の道具としては少しかつぎにくい一面を抱えています。非常に硬く密度の高い木炭であるため、火が起きるまでにかなりの時間を要し、思い立ってすぐ使うという気軽さからは程遠い存在です。
さらに、急激に加熱すると内部に閉じ込められた空気や水分が膨張し、「爆破(はぜる)」と呼ばれる現象を引き起こすこともあります。静かで美しい火力を手に入れるためには、時間をかけてゆっくりと熱を馴染ませていく丁寧な準備と、炭の性質を理解した静かな忍耐が求められます。
手軽さとは対極にある、頑なな扱いづらさ。
すぐに結果が得られる便利な道具に慣れた日常の中で、備長炭の持つこの手間や時間は、かえって火に向き合うための心地よい緊張感を与えてくれます。扱いづらさも含めてその素材の個性を受け入れるプロセスに、火を扱うことの本来の豊かさが潜んでいるのかもしれません。