重箱を重ねるとき、ふと「一の重」は一番下だろうか、と首をひねることがあります。
けれど実際には、フタを開けて最初に目に飛び込んでくる最も上の段こそが「一の重」です。数の子や黒豆、田作りといった祝い肴が美しく並び、その年の始まりや祝祭の気分を真っ先に届けてくれる、いわば重箱の顔とも言える場所です。
一番大切なものを、真っ先に届く一番上に置く。
下から積み上げて基礎を築く建築のような順序とは異なり、蓋を開けた瞬間の喜びやめでたさを重んじる数え方には、日本の暮らしに根差したもてなしの美意識が覗きます。重ねられた段の下に何が隠されているのかを想像させながら、まずは最上の景色で迎える。
日常から少し離れた重箱のしきたり。
上から下へと巡っていくお重の階層構造の中には、折り目正しく季節や節目を祝い、味わっていこうとする静かな作法が込められているのかもしれません。