暑い日でした。
外へ出る気力もなくて、冷蔵庫を開けると、冷製ポタージュが一つ残っていました。器を用意するほどでもなく、そのままマグカップへ注ぎます。
冷たい飲み物はいくつもあります。
けれど冷製ポタージュは、少し違います。
口に含むとひんやりしているのに、水のようには消えていきません。ゆっくりと広がり、とろりとした感触だけが残ります。
冷たいのに、どこかやさしい。
その感覚が不思議でした。
じゃがいもだったのか、枝豆だったのか。今となっては思い出せません。味の輪郭も曖昧です。それでも、なめらかだったことだけは覚えています。
記憶というのは時々そういうものなのかもしれません。
出来事の細かな情報は薄れていくのに、そのとき感じた手触りだけが残る。
飲み終えたあと、口の中には少しだけ冷たさが残っていました。
それは涼しさというより、静けさに近かった気がします。
何か特別なことが起きたわけではありません。豪華な食事でもありません。ただ、暑さで少し疲れていた午後に、冷製ポタージュがひとときの休憩場所になってくれました。
語れるほどの出来事ではない。
それでも、あの日の冷たさとなめらかさだけは、今もどこかに残っています。