重箱の端で赤く丸まったおせちのエビを口に運ぶとき、そのひんやりとした冷たさにふと意識が向きます。
普段の食卓なら温かい出来立てを求めるはずの海鮮が、おせち料理の中では冷やされた状態で静かに鎮座しています。腰が曲がるまで長生きできるようにとの長寿の願いを込められたその姿は、濃い目の出汁や塩分でしっかりと煮含められ、日持ちさせるための知恵が注ぎ込まれています。
正月三が日くらいは家事から解放され、火を使わずにみんなで食卓を囲めるように。冷たい状態で出されるおせちには、料理を長持ちさせる工夫だけでなく、日々の立ち仕事から人を休ませるという、家族への静かな配慮が込められています。
冷えてキュッと締まった身の、素朴な歯ごたえ。
温かさというご馳走をあえて削ぎ落とすことで生まれる、日持ちと労わりの佇まい。冷めたエビの旨味をかみしめるひとときには、新しい年の始まりを静かに祝うための、昔ながらの生活の智恵が息づいているのかもしれません。