「ホッカイシマエビ弁当」というお弁当は、どうやら世の中に存在しないらしいのです。
茹で上げると鮮やかな朱色の縞模様が浮かび上がり、濃厚な甘みと旨味が詰まったホッカイシマエビ。海鮮丼や酒の肴として愛されるその姿を思い浮かべると、お弁当の主役に据えられていても不思議ではないように思えます。
それでも駅弁や市販の折詰として見かけないのは、きっと理由があります。殻を剥く手間の多さや、時間が経つと損なわれやすい繊細な水分量。あるいは、ボイルしたての最も美味しい瞬間を知っているからこそ、蓋を閉めて持ち運ぶ形になじまなかったのかもしれません。
日常の中に一瞬だけ現れる、「ありそうで、ないもの」。
けれど、そうした存在しない弁当に思いを巡らせるとき、そこには確かに美味しさの予感や、土地の空気感が漂っています。現実のお品書きには並ばないからこそ、私たちはその味を頭の中で自由に組み立て、想像の中で味わうことができるのかもしれません。
日常の片隅でふと思い浮かべる「選ばれなかった選択肢」もまた、豊かな余白として、静かに心の中に残っていくのです。