クトゥルフ神話という名前を最初に聞いたとき、多くの人は怪物の物語を想像するのかもしれません。
けれど、その世界を少し覗いてみると、怖いのは怪物そのものではないように見えてきます。
そこにあるのは、人間の小ささです。
私たちは普段、世界は人間を中心に回っているような感覚で暮らしています。仕事のことを考え、食事をして、明日の予定を気にする。その範囲では、自分のいる場所が世界の中心です。
しかしクトゥルフ神話では、その足場が静かに崩れていきます。
宇宙には人間の理解を超えた存在がいて、その存在は人類を支配しようとも、憎もうともしません。ただそこにいるだけです。その無関心さが、かえって不思議な恐怖を生みます。
海を見ているときの感覚に少し似ているのかもしれません。
波は誰かのために打ち寄せているわけではありません。海は人間の事情とは関係なく、はるか昔から存在しています。それでも私たちは、その前に立つと自分の小ささを意識します。
クトゥルフ神話が描いているのも、そんな距離感なのでしょう。
怪物と戦う物語ではなく、人間が世界の大きさに気づいてしまう物語。知ることで安心するのではなく、知ることで揺らぐ物語です。
だからクトゥルフ神話は、恐怖の物語でありながら、どこか哲学にも見えます。
夜空を見上げたとき、自分がほんの小さな存在だと感じることがあります。その感覚に静かな形を与えたものが、クトゥルフ神話なのかもしれません。