身近な二枚貝として親しまれている「シジミ」。 アサリやハマグリに比べて小ぶりな貝ですが、その体構造や生きる仕組みには、生物として非常に優れたメカニズムが備わっています。
今回は「生き物としてのシジミ」に注目し、過酷な環境を生き抜くために獲得した生存戦略を見ていきます。
「塩分濃度が変わる場所」で生き残る特技(浸透圧の調整)
スーパー等でよく見かけるヤマトシジミは、川と海が混ざり合う「汽水域(きすいいき)」に住んでいます。
汽水域は、潮の満ち引きや大雨によって水の塩分濃度が激しく変わる場所です。普通の海の生き物や川の生き物は、周りの塩分濃度が急に変わると、細胞から水分が抜けたり膨らんだりして死んでしまいます。
しかしシジミは、自分の体の中にある成分(アミノ酸など)の濃さを変化させて、細胞の固さや形を保つ仕組み(浸透圧調整)を持っています。
この特技のおかげで、他の貝が住めない「塩分がコロコロ変わる場所」を独占して暮らすことができるのです。
(※日本にはヤマトシジミのほか、完全に淡水で暮らすマシジミやセタシジミも存在します)
水中の栄養をキャッチする「ろ過」の仕組み
シジミは自分で泳いで獲物を捕まえるのではなく、水の中に漂う小さな栄養(プランクトンなど)を食べて生きています。
貝殻から「入水管」と「出水管」という2本のチューブを伸ばし、以下のような流れで栄養を取り込んでいます。
- 水を吸い込む: 吸い込んだ水のエキス(栄養)だけを、エラの細かな毛を使って越し取る。
- キレイな水を出す: 栄養を取り終わった水を、もう一方のチューブから外へ吐き出す。
このろ過スピードはとても速く、たった1個の小さなシジミが1日に約1リットル以上の水をキレイにします。シジミは水中の濁りを取り除き、水辺の環境を保つ大きな役割を果たしています。
酸素がなくても耐えられる「省エネモード」
敵が近づいたときや、水質が悪化したとき、シジミは強い筋肉(貝柱)を使って固く殻を閉じます。
殻を閉じてしまうと外から酸素を取り込めなくなりますが、シジミは「一時的に酸素を使わないでエネルギーを作るモード」に体を切り替えることができます。
最小限のエネルギーでじっと耐え忍ぶことで、周囲の環境が悪化しても生き延びることができます。
凍りつく寒さから身を守る「凍結防御」
冬場に水温が著しく下がったとき、細胞の中の水分が凍ってしまうと、氷の結晶で細胞が破壊されて死んでしまいます。
これを防ぐため、シジミは危険を感じると体内のタンパク質を分解して、特定の成分(オルニチンなど)を体液中に大量に増やします。
「水に不純物を混ぜると凍りにくくなる(凝固点降下)」という物理の仕組みを利用して、自分の細胞が凍るのを自力で防いでいるのです。
まとめ

水底の砂の中に静かにたたずむシジミ。 ですがその体内では、塩分濃度の変化への対応、水のろ過、酸素なしでの生存、凍結防止といった高度な生き残りシステムが働いています。
小さくても過酷な環境を選んで進化してきたシジミの生態には、生き物のたくましさが凝縮されています。
